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根津甚八プロフィール
俳優。75年「娘たちの四季(フジテレビ)」でエランドール賞を受賞。同年「濡れた賽の目」で映画デビュー。80年黒沢明監督の「影武者」に出演。82年「さらば愛しき大地」でキネマ旬報主演男優賞、日本アカデミー賞主演男優賞受賞。85年に再び黒澤明監督の「乱」に出演し世界的評価を得る。近年は舞台を中心に精力的に活動している。
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4「徹夜作戦」

皆さん、いかがお過ごしですか?
相変わらず「謎」に「謎」がまとわりついてくる話を書き続けている根津甚八です。書いてるうちに何故か長くなってしまい、なかなか最後のオチにたどり着けなくて、申し訳なく思ってます。自分としても、そろそろ別の話にいきたいし、今回で完結としたいのですが、さて、どうなりますやら・・・。

明日は、いよいよ入団試験である。

西日暮里の四畳半のアパートにこもり、一人で作戦を考えていた。状況劇場の入団試験を受けることは、親兄弟にも友人にも内密である。誰に相談しても反対されるのが明白であったから、独断で決めた。

恐らく面談試験が一番の決め手になるだろう。当然、座長の唐さんも顔を出すだろうし、役者志望で入団したいのだから、面接での第一印象は大事だ。絶対入りたいんだという気迫を外見上に現しておきたいと思った。

まずは服装。普通の会社の入社試験なら、ダークスーツにネクタイで決まりなんだろうが、俺が受けようとしているのは、怪優、奇優が揃ってることで有名な状況劇場である。服装でもパンチを効かせておきたい。だからと言って、奇抜過ぎて自分らしさを損なっても意味がない。そこで、昔でいう〈バンカラ〉風硬派のイメージで試験に臨むことに決めた。
洗いざらしの白のYシャツとジーンズの上に、袖口から手が見えないくらいぶかぶかサイズの親父のお古の濃げ茶のカーディガン。足元は素足に下駄というスタイルに落ち着いた。

残るは、顔だ。どう見ても甘っちょろい顔つきをどうしたものかと思案した末、「徹夜作戦」を思いついた。友人と徹夜マージャンをした後に目元が多少鋭くなることを思い出したのだ。これでよし。あとは当たって砕けろ、〈バンカラ〉硬派で一点突破だ。

遅めに夕飯をすませ、部屋で一人時間をつぶしていた。そして窓の外が白んできた頃、何気なしに畳に横になった。これがまずかった。
つい、うたた寝をしてしまったのだ。徹夜することしか頭になかったから、当然目覚まし時計などセットしていない。目を覚ました時はもう手遅れである。何はともあれ、死にもの狂いで劇団の稽古場まですっ飛んで行った。

唐十郎とその一党


しかし稽古場の前に着いた時は、すでに約束の時間を30分も過ぎていた。稽古場の入り口は、想像していたものとは違って、レンガ作りの立派な構えの玄関である。柱に「状況劇場」の看板と横には唐十朗と表札もある。唐さんの自宅兼劇団の稽古場ということであるらしい。
正面のガラス扉は、遅れて来た俺を拒絶してるかのごとくキッチリ閉まっていて、中で動く人影もない。扉に近づきガラス越しに中の様子をうかがうと、うす暗く、妙にシーン静まり返っている。
(そうか、試験はとっくに始まってるんだ。しかし、ここまで来て引き下がるわけにはいかない。何しろ、俺にはあとが無いのだ)
気を取り直し、思い切って真鍮のノブを回した。
やけに広い玄関ホール。相変わらずの静寂。すでに中にいるはずの他の入団志望者たちの一人も見えない。演劇界の最前衛を疾走している状況劇場の新人募集である。少なくとも20人位の演劇青年たちが来ていて、何かしらのざわつき感があるはずなのに、この静けさは何だ? 人の気配がまるでしない。ふと足元を見ると、広いタタキにはサンダルが二つあるだけ。
(あれ、試験はもう終ってしまったのか? 受けにきた人達はみんな帰ったということ???)

不気味に静けさに包まれている玄関ホール。
「スミマセ~ン」思いっ切って声をあげた。すると、右手奥から、男性が一人、無愛想な感じでノッソリと出てきて、俺の真正面に立った。
(あっ、先週観た芝居で、床屋を演っていた人だ)
「…あ、あの、この間電話しました、根津ですが…」自分でも驚くほどか細い声しか出ない。
「こんな大事な日に、遅刻するとは何事だねっ!」
「……」返せる言葉など何もない。
「ちょっと待ってなさい」と言い置いて奥へ去った。
(オシマイだな)と殆ど諦めの境地で待っていたら、程なく戻って来て、玄関に立ち尽くしてる俺に、こう告げたのだ。
「……明日もう一度、同じ時間に来なさい」
「は?」 一瞬言われてることの意味がよく解らなかったが、とにかく明日もう一度チャンスをくれるということである。助かったという気持ちと同時に、バツの悪さもあってそそくさと玄関を後にした。

この夜、御丁寧にまた徹夜をして(理由はハッキリ記憶にないが、自分に気合いを入れたかったのだろう。結局ほぼ丸二日間眠らずに試験に臨んだ)
翌日、今度ばかりは指定時間よりだいぶ早めに稽古場に着き、玄関ホールに入り声を掛けると、昨日と同じ人が現れた。10畳程の洋間に案内され、すぐにペーパーテスト開始。そして詩の朗読(高橋睦郎の『ブランコ』だった)を終えると、
「もう少しで唐さんが帰ってくるので、それから面接をします」と告げられた。

オーッ、ついにあの憧れの唐十朗が来る! ついにあの唐十朗に会える!! 

また長くなってしまいました。そして、また次回へつづくことに。 
すみません。次か、そのまた次で、すべての謎に納得がゆきますので、しばしお待ちを。
投稿者 根津甚八 21:37 | コメント(12)| トラックバック(0)

3「紅テントが無い」

梅雨の季節が一番苦手な、甚八です。この鬱陶しい日々、みなさん、元気にやってますか? 

ところで日本VSクロアチア戦。川口はオーストラリア戦と同じくまさに守護神だった。あのPKクリアーで、日本のリズムになって、この調子で押していけば、ひょっとしたら勝てるかもと期待したけど、やはり最後のあと一歩というところでどうしてもゴールを奪えないといういつものパターン。日本にはエースストライカーがいないから仕方ないのかな。でも、オーストラリア戦に続いて、昨日もまた本当に悔しい一夜でした。

では、前回の続編です。

「唐十朗のスピリットは、俺のこの肉体にすでに染みこんでいる!」
これだけ熱い思いを胸に抱いているのだ、状況劇場に入りたい動機としては充分である。だから、芝居を観たことがないことをフツーに伝えた。
しかし一般常識からすれば、実際の舞台も観ていないで劇団に入りたいなどという人間は、はなから無視されて当然。普通ならこの時点で一巻の終わりだったろう。入団の望みはここで断たれていたかもしれない。
しかし、何故かチャンスは繋がった。「うちの芝居を観てから、また電話しなさい」

二十歳そこそこの非常識な若造に、何故こんなにも丁寧に対応してくれたのか?という一つの謎、そして入団試験当日のさらなる奇妙な対応の謎も、ここではまだ他に置いといていただいてと…。

ってなわけで、教えられた公演当日、俺は勇んでタイソウジ(太宗寺)へ出かけていった。ところが、寺の境内のどこにも紅テントらしき物など見当たらないではないか。 すると、奥の方で大声をあげている人がいる。

太宗寺


「今日の、公演は、場所が変わりました、明大の和泉校舎です」近づいてゆくと、「急にお葬式が入ちゃってお寺では出来なくなりましたので、こちらでやります」と案内図を渡された。大急ぎで明大和泉のキャンパスにたどり着くと、そこに紅テントはあった。懐かしいようで、どこか恐ろし気な異様な雰囲気で立っていた。中に入ると、何故か子供のころに覗いた見せ物小屋を思い出した。やがて、フルートのおどろおどろしいメロディとともに「腰巻きお仙」は始まった。本からイメージした思い入れが強すぎたせいか、割と冷静に観ていたことを覚えている。芝居が終わるころには、心中密かに「役者として自分の入り込む隙間はある」というまったく根拠のない自信のようなものを抱いていた。
「昨日、芝居を観ました」
「…そう…」
「気持ちはかわりません。それで、試験日はいつでしょうか?」
「待って下さい。……それじゃね、○月○日の○時に、こちらに来てください。」劇団の稽古場の住所、道順を聞いて電話を切った。
こうして、ひとまず入団試験を受けられるところまではこぎ着けたのであった。
しかし、試験当日、俺はまたしてもとんでもないヘマをやらかしてしまう。ところが事態はまたしても予想外の展開となり、いよいよ憧れの鬼才・唐十朗と対面することとなるのである。

つづきはまたの機会をお楽しみ。思いもよらぬ展開はまだまだ続くのです。今回はここまでとさせてもらいましょう。

では、またお会いしましょう。
投稿者 根津甚八 15:03 | コメント(11)| トラックバック(1)

観たことない???2

根津甚八です。雨の多い季節がやってきましたが、いかがお過ごしでしょうか? 今回は、全仏オープンともドイツのワールドカップとも何の関係もない前回の続編です。

「うちの芝居も観ないでだよ、決められないだろ、こういう人生の一大事を!!!」
受話器からの声が明らかにワントーン高まった。
(ウッ、まずい。この気まずい間を何とかしないと)何か言わなくちゃ…しかし、焦れば焦るほどドツボにはまってゆく。言葉につまる。
(こりゃ、駄目だ、これでオジャンか。ああ、このままでは電話を切られてしまう)と思っていたその時、意外な言葉が返ってきた。
「……あのね…来週のね、日曜の6時から、新宿のタイソウジというお寺で公演があるから、それを観て、まだうちに入りたいようだったらまた電話しなさい」
「そうですかっ、あ、ありがとうございます」
公演場所と時間を確めて電話を切った。

腰巻お仙


この電話で指摘されるまで、俺の中には前もって状況劇場の芝居を観ておくという発想のカケラさえなかった。つまり、入社試験を受けようというのに、目指す会社の実態もロクスッポ調べないで「御社に入りたいんですけど」と言ってるのも同然、見合い相手の写真も見ずに「この人とお見合いしま~す」と一方的に叫んでるのも同然なのだ。相手が機嫌を損ねるのは至極当然。だからといって、「あ、すみません。ド忘れしてました、観たことあります」というような咄嗟のウソも出てこなかった。正直、俺は唐さんの芝居をただの一度も観たことがなかったのだからしかたない。いや、観る必要性を感じなかったというほうが正確かもしれない。
唐さんの本は全て(といっても当時は『腰巻きお仙』と『ジョン・シルバー』の2冊しか出版されてなかった)何度も繰り返し読み、「特権的肉体論」に心酔し、その実践者になるんだと心の決め(いま思い返すと笑っちゃいますね)「腰巻きお仙」を無断で上演したりしていた。性来思い込みの激しい質なものだから、「唐十朗の演劇スピリットは、すでに俺の肉体にしみ込んでいるのだ」と思い込んでいた。なんと言う不遜な思い上がりだろう。しかし、まだケツが青かった根津くんは、本気でそう信じ込んでいたのだ。

つづく

でも、この頃つくづく思います。若さゆえの思い上がりって大事です。極端なことを言えば、社会的責任の比較的軽い20代にこそ、弾けて思いっきり生意気やんなきゃ駄目です。自分をどこまでぶん回せるか、試せるだけ試せる貴重な年代だと思う今日この頃です。

では、またお会いしましょう。
投稿者 根津甚八 19:12 | コメント(11)| トラックバック(0)

観たことない???

根津甚八です。今年の5月の天気にはガッカリでしたね。みなさん、いかがお過ごしですか? 冴えない天候もなんのその、元気一杯テニスで汗流してることでしょう。
 
ブログに寄せられたコメントにはすべて目を通してますが、状況劇場時代からのファンの方から何通かあったのは嬉しかったですね。ファンってありがたいものだなと、改めて思いました。そこで今回は、かつて俺がいた劇団状況劇場がらみのエピソードを披露しましょう。

1969年。それまでのめり込んでいた全共闘の活動に疑問を感じ始めていた俺は、自分の将来のことで思い悩んでいた。「大学解体」をスローガンに、火炎ビン、投石、ゲバ棒で暴れていた輩が、いまさら学内に戻りようもなく、さてこれから先どうしたらいいものかと切羽詰まっていた折も折、以前から傾倒していた唐十朗が主宰する、あの状況劇場が新人を募集しているという話を聞いた。
えっ、まさかそんなことあり得ないだろ。だって状況劇場といえば、ある時は街頭劇、またある時は紅テントをひっかついで、空き地から空き地へ神出鬼没な上演で勇名を馳せている超・前衛演劇集団。まるでサーカス団みたいな流浪の人々で、おまけに役者たちは、唐さんがさらってきた奇人、変人ばかりで、泣き優、禿げ優、痴優、心中優、遁優など、わけのわからない異形(いぎょう)の者と病者(びょうじゃ)の集まりである。それが、既成の劇団と同じように新人を一般公募しているという話は、にわかには信じられないことであったが、周りの友人たちが、次々と今後の身の振り方を具体的に決めてゆく中で、一人取り残されていた俺は、半信半疑ながら、願ってもないこのチャンスにかけることにした。いや、この劇団に入るしか他に道は考えられなかった。

紅テント


「モシモシ、状況劇場ですか?」
もう、心臓バクバクものである。
「…そうですが…」
無愛想で、沈んだ男の声が返ってきた。唐さんか?いや、そんなわけないな、座長が一々こんな問い合わせの電話に出るはずがない。 
「あの、いま、そちらで新人を募集していますよね?」
「…ええ、ま、そうですねぇ」
「それで、その~、試験日はいつでしょうか?」
「う~ん、試験ねぇ…ところで、キミ、うちの芝居観たことあるの?」
「いえ、ありません」
俺は、アッサリ応えた。
「…なに、観たことない??? キミね、うちに入りたいのに、うちの芝居観たことないっていうのはねえ、どうなのかねえ」
「…ハア…」
「あのさ、うちの芝居も観ないでだよ、決められないだろ、こういう人生の大事を!!!」
「?… あ、ハイ」
電話口の男の不愉快そうな反応に戸惑い気味の俺。
(大事と言われれば、確かにそうかもしれないが、いきなり人生を語られてもな、しかし、観てないのは事実だし…まいったな、何か言わなければ、何か…あせればあせるほど言うべきことが解らなくなってくる…)
イヤ~な沈黙の時がながれる。

しかしこのあと、握りしめた受話器から返ってきた言葉は、俺にはまったく予想外のものであった。

つづきは次回。
お楽しみに。またお会いしましょう。
投稿者 根津甚八 16:45 | コメント(13)| トラックバック(0)
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