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根津甚八プロフィール
俳優。75年「娘たちの四季(フジテレビ)」でエランドール賞を受賞。同年「濡れた賽の目」で映画デビュー。80年黒沢明監督の「影武者」に出演。82年「さらば愛しき大地」でキネマ旬報主演男優賞、日本アカデミー賞主演男優賞受賞。85年に再び黒澤明監督の「乱」に出演し世界的評価を得る。近年は舞台を中心に精力的に活動している。
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観たことない???2

根津甚八です。雨の多い季節がやってきましたが、いかがお過ごしでしょうか? 今回は、全仏オープンともドイツのワールドカップとも何の関係もない前回の続編です。

「うちの芝居も観ないでだよ、決められないだろ、こういう人生の一大事を!!!」
受話器からの声が明らかにワントーン高まった。
(ウッ、まずい。この気まずい間を何とかしないと)何か言わなくちゃ…しかし、焦れば焦るほどドツボにはまってゆく。言葉につまる。
(こりゃ、駄目だ、これでオジャンか。ああ、このままでは電話を切られてしまう)と思っていたその時、意外な言葉が返ってきた。
「……あのね…来週のね、日曜の6時から、新宿のタイソウジというお寺で公演があるから、それを観て、まだうちに入りたいようだったらまた電話しなさい」
「そうですかっ、あ、ありがとうございます」
公演場所と時間を確めて電話を切った。

腰巻お仙


この電話で指摘されるまで、俺の中には前もって状況劇場の芝居を観ておくという発想のカケラさえなかった。つまり、入社試験を受けようというのに、目指す会社の実態もロクスッポ調べないで「御社に入りたいんですけど」と言ってるのも同然、見合い相手の写真も見ずに「この人とお見合いしま~す」と一方的に叫んでるのも同然なのだ。相手が機嫌を損ねるのは至極当然。だからといって、「あ、すみません。ド忘れしてました、観たことあります」というような咄嗟のウソも出てこなかった。正直、俺は唐さんの芝居をただの一度も観たことがなかったのだからしかたない。いや、観る必要性を感じなかったというほうが正確かもしれない。
唐さんの本は全て(といっても当時は『腰巻きお仙』と『ジョン・シルバー』の2冊しか出版されてなかった)何度も繰り返し読み、「特権的肉体論」に心酔し、その実践者になるんだと心の決め(いま思い返すと笑っちゃいますね)「腰巻きお仙」を無断で上演したりしていた。性来思い込みの激しい質なものだから、「唐十朗の演劇スピリットは、すでに俺の肉体にしみ込んでいるのだ」と思い込んでいた。なんと言う不遜な思い上がりだろう。しかし、まだケツが青かった根津くんは、本気でそう信じ込んでいたのだ。

つづく

でも、この頃つくづく思います。若さゆえの思い上がりって大事です。極端なことを言えば、社会的責任の比較的軽い20代にこそ、弾けて思いっきり生意気やんなきゃ駄目です。自分をどこまでぶん回せるか、試せるだけ試せる貴重な年代だと思う今日この頃です。

では、またお会いしましょう。
投稿者 根津甚八 19:12 | コメント(11) | トラックバック(0)
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