観たことない???2006年06月05日
根津甚八です。今年の5月の天気にはガッカリでしたね。みなさん、いかがお過ごしですか? 冴えない天候もなんのその、元気一杯テニスで汗流してることでしょう。
ブログに寄せられたコメントにはすべて目を通してますが、状況劇場時代からのファンの方から何通かあったのは嬉しかったですね。ファンってありがたいものだなと、改めて思いました。そこで今回は、かつて俺がいた劇団状況劇場がらみのエピソードを披露しましょう。
1969年。それまでのめり込んでいた全共闘の活動に疑問を感じ始めていた俺は、自分の将来のことで思い悩んでいた。「大学解体」をスローガンに、火炎ビン、投石、ゲバ棒で暴れていた輩が、いまさら学内に戻りようもなく、さてこれから先どうしたらいいものかと切羽詰まっていた折も折、以前から傾倒していた唐十朗が主宰する、あの状況劇場が新人を募集しているという話を聞いた。
えっ、まさかそんなことあり得ないだろ。だって状況劇場といえば、ある時は街頭劇、またある時は紅テントをひっかついで、空き地から空き地へ神出鬼没な上演で勇名を馳せている超・前衛演劇集団。まるでサーカス団みたいな流浪の人々で、おまけに役者たちは、唐さんがさらってきた奇人、変人ばかりで、泣き優、禿げ優、痴優、心中優、遁優など、わけのわからない異形(いぎょう)の者と病者(びょうじゃ)の集まりである。それが、既成の劇団と同じように新人を一般公募しているという話は、にわかには信じられないことであったが、周りの友人たちが、次々と今後の身の振り方を具体的に決めてゆく中で、一人取り残されていた俺は、半信半疑ながら、願ってもないこのチャンスにかけることにした。いや、この劇団に入るしか他に道は考えられなかった。
「モシモシ、状況劇場ですか?」
もう、心臓バクバクものである。
「…そうですが…」
無愛想で、沈んだ男の声が返ってきた。唐さんか?いや、そんなわけないな、座長が一々こんな問い合わせの電話に出るはずがない。
「あの、いま、そちらで新人を募集していますよね?」
「…ええ、ま、そうですねぇ」
「それで、その~、試験日はいつでしょうか?」
「う~ん、試験ねぇ…ところで、キミ、うちの芝居観たことあるの?」
「いえ、ありません」
俺は、アッサリ応えた。
「…なに、観たことない??? キミね、うちに入りたいのに、うちの芝居観たことないっていうのはねえ、どうなのかねえ」
「…ハア…」
「あのさ、うちの芝居も観ないでだよ、決められないだろ、こういう人生の大事を!!!」
「?… あ、ハイ」
電話口の男の不愉快そうな反応に戸惑い気味の俺。
(大事と言われれば、確かにそうかもしれないが、いきなり人生を語られてもな、しかし、観てないのは事実だし…まいったな、何か言わなければ、何か…あせればあせるほど言うべきことが解らなくなってくる…)
イヤ~な沈黙の時がながれる。
しかしこのあと、握りしめた受話器から返ってきた言葉は、俺にはまったく予想外のものであった。
つづきは次回。
お楽しみに。またお会いしましょう。
ブログに寄せられたコメントにはすべて目を通してますが、状況劇場時代からのファンの方から何通かあったのは嬉しかったですね。ファンってありがたいものだなと、改めて思いました。そこで今回は、かつて俺がいた劇団状況劇場がらみのエピソードを披露しましょう。
1969年。それまでのめり込んでいた全共闘の活動に疑問を感じ始めていた俺は、自分の将来のことで思い悩んでいた。「大学解体」をスローガンに、火炎ビン、投石、ゲバ棒で暴れていた輩が、いまさら学内に戻りようもなく、さてこれから先どうしたらいいものかと切羽詰まっていた折も折、以前から傾倒していた唐十朗が主宰する、あの状況劇場が新人を募集しているという話を聞いた。
えっ、まさかそんなことあり得ないだろ。だって状況劇場といえば、ある時は街頭劇、またある時は紅テントをひっかついで、空き地から空き地へ神出鬼没な上演で勇名を馳せている超・前衛演劇集団。まるでサーカス団みたいな流浪の人々で、おまけに役者たちは、唐さんがさらってきた奇人、変人ばかりで、泣き優、禿げ優、痴優、心中優、遁優など、わけのわからない異形(いぎょう)の者と病者(びょうじゃ)の集まりである。それが、既成の劇団と同じように新人を一般公募しているという話は、にわかには信じられないことであったが、周りの友人たちが、次々と今後の身の振り方を具体的に決めてゆく中で、一人取り残されていた俺は、半信半疑ながら、願ってもないこのチャンスにかけることにした。いや、この劇団に入るしか他に道は考えられなかった。
「モシモシ、状況劇場ですか?」
もう、心臓バクバクものである。
「…そうですが…」
無愛想で、沈んだ男の声が返ってきた。唐さんか?いや、そんなわけないな、座長が一々こんな問い合わせの電話に出るはずがない。
「あの、いま、そちらで新人を募集していますよね?」
「…ええ、ま、そうですねぇ」
「それで、その~、試験日はいつでしょうか?」
「う~ん、試験ねぇ…ところで、キミ、うちの芝居観たことあるの?」
「いえ、ありません」
俺は、アッサリ応えた。
「…なに、観たことない??? キミね、うちに入りたいのに、うちの芝居観たことないっていうのはねえ、どうなのかねえ」
「…ハア…」
「あのさ、うちの芝居も観ないでだよ、決められないだろ、こういう人生の大事を!!!」
「?… あ、ハイ」
電話口の男の不愉快そうな反応に戸惑い気味の俺。
(大事と言われれば、確かにそうかもしれないが、いきなり人生を語られてもな、しかし、観てないのは事実だし…まいったな、何か言わなければ、何か…あせればあせるほど言うべきことが解らなくなってくる…)
イヤ~な沈黙の時がながれる。
しかしこのあと、握りしめた受話器から返ってきた言葉は、俺にはまったく予想外のものであった。
つづきは次回。
お楽しみに。またお会いしましょう。