tennis365.net テニス365ブログ 新着記事を読む ]    [ テニス365 ホームショッピングニュースログイン ]


根津甚八プロフィール
俳優。75年「娘たちの四季(フジテレビ)」でエランドール賞を受賞。同年「濡れた賽の目」で映画デビュー。80年黒沢明監督の「影武者」に出演。82年「さらば愛しき大地」でキネマ旬報主演男優賞、日本アカデミー賞主演男優賞受賞。85年に再び黒澤明監督の「乱」に出演し世界的評価を得る。近年は舞台を中心に精力的に活動している。
最近の記事
永らくご無沙汰してお…
02/08 14:19
アクシデント
07/30 12:44
ペイントにはまるⅡ
06/25 18:14
ペイントにハマる
06/11 14:53
異形の役者体9
05/28 17:34
最近のコメント
そうですね^^冬の運…
hotarugusa 10/27 16:49
今、「冬の運動会」が…
ヤマ 10/27 07:28
すっかり“秋”の気配…
hotarugusa 09/23 11:56
CSで録画していた「…
ヤマ 09/21 21:51
“他愛のないメール”…
hotarugusa 09/17 19:48
最近のトラックバック
根津甚八様 御許に
05/09 20:19
根津甚八様 おんもと…
05/09 00:20
全豪トラックバック大…
02/24 18:09
一人の女を本気で愛す…
12/15 02:33
テニスシューズを買い…
12/07 21:57

注射 2

皆さん、いかがお過ごしですか? 根津甚八です。

日によっては、肌寒ささえ感じるようになってきましたね。

我が家の姫娑羅の葉も少しずつ色づき始めています。
姫娑羅は、今の家に越して来た時、リビングルームから眺められる庭の主役の樹として植えました。
蕪立ちという独特の生え方、橙色気味の明るい色調の幹、僅かな風にもすぐ反応してユッタリと揺れるその優しい風情、落葉樹だから四季折々に変わる表情など・・・とても味わい深い樹で、俺の大のお気に入りです。

陽の光を浴びてオレンジ色に透けて見える葉を、居間のソファーに横たわって眺めていると、チョッピリ寂しさを感じてしまう今日この頃です。

姫娑羅


では、前回の続きの始まり、始まり。

「ねえ、監督。幸雄のシャブを打つシーンなんだけど、シャブを溶かすところから、最後にポンプ(注射器)を洗うところまで、ワンカットの長回しで撮りませんか?」
「ああ、それでいきたいねぇ。でも、根津さん、やれんの?」
「注射の練習しときますから」

と言ったはいいものの、俺は、別に薬物中毒者であったためしがないから、自分で自分に注射を打った経験なんぞ全くない。

そこで、知り合いの医者に聞いてみた。

「素人が自分に注射って、出来んの? 空気が入ったりすると死ぬって聞くけど・・・」
「空気が入ったって、よっぽど大量に入れなきゃ死ぬことはないよ。例えば注射器の半分ぐらいだと、危ないかな。少々血管に入っても、痛いだけだ。」
「打つ直前に、注射器針を上に向けて液を出すのは、空気が入ると命にかかわるからじゃないの?」
「あれは、血管にエアーが入ると痛いから、空気を抜いてるんだよ。」
「へえ、そうなんだあ」
「・・・うん、シャブ中の役かあ。じゃ、覚せい剤の替わりにブドウ糖を静脈注射して、練習したら、栄養にもなるし、アッハッハッハッ」

ってなことで、翌日からブドウ糖をシャブ替わりに、ひたすら練習開始。

自分で自分の腕に打つ「中毒者打ち」。(俺が勝手に名付けた。)これが、なかなか難しい技なのだ。参考の為(何の?)、チョイと、その手順を説明しておこう。

まずは、溶かしたシャブをポンプに吸って注射器をスタンバイしておく。次に、左腕の上腕筋の辺りをハンカチなどでキツメに縛る。左手は使えないので、替わりに口、というか、歯を使う。そして、親指を中に入れてげんこつ握りすると、肘のあたりに太い静脈が浮き出て来る。
血液検査や点滴等を受けた人は知ってると思うが、ここまでは簡単、誰でも容易に出来る。

次に、ポンプを右手に持つのだが、この掴みどころがミソ。

液を押し出す部分には触れないようにして(中毒になると、たとえ一滴でも垂らしたら勿体ないのだ)、人差し指以外の指で慎重に持ち、血管に刺す。ここが第一の難関。
新米の看護士とか、インターンの医学生とか、たまにしか注射をしない偉い医者だとかにやられ経験がありませんか? 
プロだって、緊張のせいで、血管に逃げられたり(そう、血管は針先をよけるのだ)、うまく血管をとらえたとしても、強く刺し過ぎて貫通させちゃって、気づかないで薬液を注入、筋肉へお漏らししてしまうことがあるくらいだ。難しいんだな、これが! それに、漏れると痛いんだよねえ!

チャンと静脈に針先が入った目安は、注射器の管に、赤いものがチラッと逆流してくる。そしたら、ここで、残しといた人差し指君の登場。
刺さった針先がブレないように、ユックリとプッシュする。

普通の注射なら、これでおしまい。ところが、ここから、また中毒者ならではの手順がある。

最後まで押し出したたら、今度は少し引き戻すのだ。そしてまた最後まで押し切る。
なあんでか??? 
つまり、血を逆流させて、針の部分にほんのすこし残ってるシャブも完璧に注入し尽くすのだ。
そして最後に、用意しといたコップの水で、ポンプに残っている血が凝固しないように、何度かポンピングしてよく洗う。
中毒になると同じポンプを何度でも使う。回し打ちも平気。この頃は、まだエイズはなかったからね。それにしても、怖いでしょう?

以上が、シャブ中の打ち方手順。昼間は人目があるので、夜になってから、
練習した。慣れとは恐ろしいもので、2週間もやってると、しょっちゅう打ってる中毒者みたいにポンプ捌きが速くなってくるんだよね。
この密やかな練習中は、何やら、自分がジキル博士になったような気分でした。

「さらば」メイク直後
「幸雄」背中には事故死した二人の子供の戒名の入れ墨
後ろは、メイクアップを終えた、秋吉久美子さん

 
そういえば、東京・荒川で覚せい剤中毒の川又郡司の事件が起きたのはこの映画の準備の真っ最中のことでした。

あの時、テレビに流れたニュース映像は衝撃でした。

ブリーフ一枚の裸同然の格好で、40センチはあろうかという柳刃包丁を右手に、まるで獲物を狙う猛獣のように街中をフラフラと徘徊する男。

初めて目にする覚醒剤中毒者の動きでした。

何人も通りがかりの人が殺されているというのに、不謹慎も甚だしいとお思いでしょうが、こういう時、役者という人種は、やはりどこかで取材をしながら観察してしまうところがあるんですよね。一種の職業病です。

コメントを読ませていただいてると、こういう裏の話に、皆さん、興味があるようですので、また、長引いてしまいました。

続きは次回とさせていただきます。

では、またお会いしましょう。
投稿者 根津甚八 15:41 | コメント(10)| トラックバック(0)

注射

皆さん、いかがお過ごしですか? 根津甚八です。

昨日、遅まきながら、初ものの柿を食べました。
残念ながら、種無しでした。というのは、柿の実で一番好きなところが、種のまわりの、あのツルヌルしてる部分だからです。
あのチョット色っぽい食感が堪らないのです。

柿


柿といえば、俺が生まれた山梨の都留の家の庭には、大きな柿の木がありました。
柿の木の他にも、松、楓等、色んな樹木が植えられていて、今思えば、かなり大規模なものでした。中央にデカイ溶岩が枯山水風に配置されていて、北側の縁に漆喰造りの二階建ての蔵。その右手に瓦屋根の裏門。そこから、隣家との堺の塀に沿って、細長い物置小屋があり、その小屋の端に、立派な柿の木はあった。木登りして遊ぶのに手頃な枝振りで、よく登ったものでした。
ところが、この木に生る実は渋柿で、生では食えない。しかし、実は沢山生るので、母が、軒下に吊るして干し柿にしたものを、おやつで食べたものでした。

軒下に整然と吊るしてある橙々色の干し柿。あの頃は、ごく当たり前の秋の懐かしい光景だったのに、今では滅多に目にする機会もない。
都会の風景は、急速に季節感を感じさせる風物を失っている。

などと、シンミリしてしまうのは、やはり「秋」が深まってきたからでしょうか?

今日は、前回の話に出た映画「さらば愛しき大地」を撮っていた時の、エピソードを紹介します。

あれは、向田邦子さんの「隣りの女」というテレビドラマに出演した、翌年であった。
マネージャーから「柳町光男監督自ら出演依頼があって、シナリオが届いてるから、読んでみて」と言われ、手渡されたのは、なんと!!!監督が自ら書いた生原稿のコピーの束であった。
出演依頼の際、普通は、きちんと製本された台本が届けられるのが当たり前だから、これには、少々驚いた。

その日の夜、ベッドに入ってから、寝る前にザッと目を通すつもりでコピーの束を読み始めた。ところが、一旦読み出したら、話の展開の早さと、濃密さと迫力に圧倒されて、一気に読み切ってしまった。その夜は興奮して中々寝つかれなかったのを覚えている。

読み終えて、「演ってみたい」と思ったと同時に、「演っていいのか」という迷いもあった。それは、俺にオファーされた主人公・幸雄の役どころに原因がある。
幼い息子二人を事故で失ったことを機に、幸雄の人生の歯車は狂い始め、愛人へ、覚せい剤中毒へと堕ちてゆき・・・というキャラクター。いわば破滅的な「汚れ役」である。
当時の俺は、二枚目路線でいっていたから、(ウォー、コッ恥ずかしい!)
この、シャブ中のダンプの運転手・幸雄役は、それ迄の根津甚八のイメージをぶち壊しかねない大きな賭けでもあったのだ。
結構迷った挙げ句、演ることにした。
やはり、シナリオの持っている力強さと、柳町監督のデビュー作「十九歳の地図」に感激していた俺は、監督・柳町光男に対する強い興味が引き金となった。

演ると決めたはいいが、「幸雄」を演じるためには、準備しなければならないことが、大きく四つあった。

一つは茨城弁をマスターすること。映画の舞台は、茨城県鹿島の田園地帯。
「幸雄」は、その一角にある農家の長男という設定である。可能な限りナチュラルである方が望ましい。それに、柳町監督自身が茨城出身であるから、なおさら完璧を目指したいと思った。
状況劇場時代に、韓国、バングラディッシュ、シリアのパレスチナキャンプ地と、それぞれの国の言語で台詞を丸暗記して上演した時、俺の台詞は、80%ぐらい通じていたという実績から、いくら馴染みのない言葉の台詞でも、集中特訓すれば茨城の人が観ても、納得させる自信はあった。

二つ目は、10トン積みダンプカーの運転。
役の職業がダンプの運転手なのだから、当然一般道での運転のシーンがある。街中を荷台を上げっ放しで、電柱をなぎ倒し暴走する場面(このシーンは、予算上等の理由で、撮影されなかった)まであるのだ。大型四輪の免許は、必須である。
早速、近くの自動車教習所でライセンスを取得しようと、問い合わせてみたら、普通免許を取ってから丸二年経過していないと受験資格がないことが判明。この時、俺はフツ免を取得してから、まだ一年数ヶ月。
打つ手はない。仕方がない、監督に何とか工夫してもらおう。
一般道でカメラを回すなら、ゲリラ撮影しかないだろうと思った。

ダンプのシーン


三つ目。注射である。
主人公は、覚せい剤中毒になっていく。当然、人目を忍んで,独りで自らの腕にポンプを刺し、シャブ(覚せい剤)を打つシーンがある。
中毒になると、日に何度も打ち続けているわけだから、その一連の動作は手慣れたものであることが、リアリティを生む。
この映画では、覚せい剤中毒が一つの重要なモチーフであったから、今迄の日本映画には無い新しい要素を入れたかった。

それまでの映画では、大方の注射の場面の撮影は、俳優が注射器を手にして、腕なり、身体の何処かに近づけたところで、カット。次に、注射器と手だけのアップとなる。
そして、実際に打つのは、撮影現場に控えている看護士か医者が行う。感染等の危険を想定してのことである、と思う。

クランクインするだいぶ前に、俺は監督に提案してみた。

「ねえ、監督。幸雄のシャブを打つシーンなんだけど、シャブを溶かすところから、最後にポンプ(注射器)を洗うところまで、ワンカットの長回しで撮りませんか?」
「ああ、それでいきたいねぇ。でも、根津さん、やれんの?」
「注射の練習しときますから」

ってことで、次の日から、注射の「中毒者打ち」の特訓が始まったのである。

長くなってます。もう分かってますよね?
そうです。つづきは、次回へ・・・。

では、またお会いしましょう。
投稿者 根津甚八 16:49 | コメント(12)| トラックバック(0)

このぉ、オオカミ少年!3

皆さん、いかがお過ごしでしょうか? 根津甚八です。

夜は寒さを感じるようにになってきました。俺の周囲には、風邪にやられてる人も結構います。皆さんは大丈夫ですか?
一週間くらい前から、掛け布団プラス毛布を使い始めました。
俺のお気に入りの毛布は、毛足の長いアクリル製です。
ベッドに潜り込んだ時の「ぬくぬく感」が、たまらなく気持ち良いんですよね。この味を知ったら、重くてチクチクする純毛の毛布には二度と戻れません。
これに似たフィーリングでお気に入りなのが、素肌に直にフリース!
こいつも一度やったら、癖になります。ビロードのようなテクスチュアが心地良いんです。お勧めですよ。風には弱いですけどね。

では、前回の続編の始まり、始まり~。

(どうしたら、いいんだ? 一体、どうしたらあ????)

ドラマの撮影はどうなる? 俺が間に合わなければ、当然撮影は延期となるしかない。俺の責任だ。あんな悪戯なんかしなきゃよかった。あ~、あ~・・・。
しかし、ここで独り途方に暮れてたって、何も変わらない。
どうにかしなくては・・・。

(待てよ、あの制服男、確か、エアーアメリカンとかカウンターとかいってたな。よし、取りあえずそこへ行ってみよう)

くそ長い廊下を逆戻りして、何とかエアーアメリカンのカウンターにたどり着いた。早速、中の女性に聞き始めた。またもや必死のブロークンイングリッシュの連発。

「エクスキュウズミー? 」
「May I help you.」

ボーディングパスを差し出しながら、必死で訴えた。

「アイ クッドゥノット テイク ジス フライト! バット、アイ マストゥ ゴー トゥ ジャパン・・・・」

このあとはあまりに長くなるので省略。とにかく俺は、知る限りの英単語をつなげて切羽詰まった事情を説明したら、何とか通じたらしい。
そして、彼女のの返答はおよそ次のようなものであった。

貴方が持っているチケットは団体割引のチケットだから、他の便には使えない。明日の同じ便なら使える。でも貴方が、今日中にナリタに着く方法がひとつある。他の航空会社の便を乗り継いで行けば可能。個人でフランクフルトからナリタ迄のチケットを全て買い直す現金を持っているなら、
出来る。と、まあ、こんな説明であった。

あいにく、そんな現金の持ち合わせが無かった俺は、今日中にナリタに着くことを諦めざるを得なかった。
とりあえず、明日の便を予約して、カウンターを離れた。

(こうとなっては、恥を忍んで3人の仲間がいる西ベルリンへ戻るか、フランクフルトの安いホテルで独りの夜過ごすか、どちらかしかない。でも、あんな嘘ついておどかしちゃったからな~・・・。といって、フランクフルトで独りぼっちの夜というのもな~・・・)
しばし迷った挙げ句、西ベルリンへ戻ることに決めた。

西ベルリンのホテルへ電話をかけた。プルルル。

「ハロー?」

電話口に出たのは、なんと、またTさんである。

「あ、おれ・・・」
「あん? 何? 根津さん???」(後で聞いた話だが、この時彼は、最近の国際便は電話が出来るのかと思ったそうだ)
「ん、それが、ホントに飛行機に乗り遅れちゃったんだよ(消え入りそうなか細い声)」
「ええっ!!! ホントに?????」
「うん・・・ホントに。いままだフランクフルト」
「・・・このぉ、オオカミ少年!!!!!」
「(シュ~ン)」

この後、俺は済まなそうに小さくなって、西ベルリンへ向かったのである。

皆さんも、悪戯はほどほどにいたしましょう。

では、またお会いしましょう。
投稿者 根津甚八 11:06 | コメント(7)| トラックバック(0)

このぉ、オオカミ少年!2

皆さん、いかがお過ごしでしょうか? 根津甚八です。

もう秋の虫が鳴き始めましたね。
毎年この時期になると、我が家では近くのペットショップから〈鈴虫〉を3、4匹買って来て庭に放します。〈鈴虫〉の鳴き声、和みますよ。

では、「このぉ、オオカミ少年!2」の始まり、始まり~~~。

ビールでのホロ酔いのせいで、今日からベルリンの夜を楽しむに違いないと、3人を妬む気持ちが吹き出した。
そして、メッチャ面白い悪戯を思いついてしまったのだ。
O君に公衆電話のかけ方を教えてもらい、即実行!

泊まっていた西ベルリンのホテルに電話して、マネージャーとTさんの部屋をコール。 
プルルル~、プルルル~・・・、(う~ん、出掛けちゃってるかなあ・・・)と、諦めかけた時、出ちゃったんだなあ、これが。

「ハロー?」
「あ、Tさん? 俺だよ、俺。」
「おお、どうしたの?」
「・・・うん、それがさあ、大変なことになっちゃったんだよ。」
「・・・?」
「あのさ、・・・飛行機に乗り遅れちゃったんだよ!」
「へ???」
「だからあ、成田行きの便にね、乗り遅れちゃったんだよお!!!」
「えええええっ!!!!!  ホントかよ!!!!! ・・・どうしよう・・・だって、東京に着いたら、すぐ大島行きだろう?  ああ、どうしよう・・・
でもマネージャーのIさんも、今いないしなあ・・・どうしたらいいんだ・・・」
「・・・へっへっへっ、ウソだよ~~~ん」
「はあ?」
「いやあ、うまくいったなあ、ヒャッヒャッヒャッ(大笑い)」
「何だよ、もう」
「いやいやいや、実は、もうすぐ国際便に乗るところっ。あのさ、Tさん達の帰りの便は俺のと同じでしょ? だったら、フランクフルトでのトランジットタイムがスッゲエ長いからさ、一旦空港出て、市内見物したら良いよお。じゃ、先に帰ってるからあ~」

悪戯電話大成功! 気分もスッキリとO君の待つテーブルに戻った。

さらば愛しき大地


「じゃ、僕はそろそろケルンへ向かいますんで。」
「そう。今日はいろいろとありがとう。日本に来ることがあったら、連絡して」
「ありがとうございます。あ、根津さんは、あと20分ぐらいユックリしてて大丈夫ですよ」
「あ、そう。じゃ、残ってるビール空けてから行くよ」
「それじゃ」

と、彼は、にこやかにケルンのお祭りへ向かって行った。

時計を見ると、出発時間の30分前である。
(さてと、ボチボチ仕事が待ってる日本へ向かうとするか)
パスポートコントロールを通過し、成田行きが待機してる36番ゲートへと、一直線の長い廊下歩き出した。
ゲート番号の表示板は、1番から始まっている。
行けども行けども36番は見えてこない。(何だよ、こんなに遠いの)
少し早足になる。廊下の両サイドに見える番号はまだ10番台。
(これは、チョット遠過ぎだろう)腕時計を見ると、20分前。さすがに焦り始める。俺はは全速で走り出した。(ひょっとして、36番ゲートって、一番奥かあ?) 

後で知ったんだけど、フランクフルト空港は当時ヨーロッパで一番デカイ空港だったんだって。O君、何で教えてといてくれなかったんだろ? 彼もビールで頭をやられてたのかな?

息も絶え絶えで、突き当たりの36番ゲートの前にやっとたどり着いた。

しかし、ゲート前に並んでる椅子には誰一人いない。閉じられたゲートの前に、警官風の制服制帽姿の大柄な男が一人立っているだけ。大きなガラス越しに俺が乗るべき飛行機はまだいる。だが、ナ,ナ、ナント乗客が乗り降りする時に伸び縮みする屋根付きの廊下(あれ、何て名前なんだろう?)、そ、それが、機体から離れてるのではないか!!!!!

(これはヤバイって! 絶対にヤバイ!!! )

こうなったら警官か何だか分からないが、目の前の制服男に頼み込んで乗せて貰うしかない。俺は必死にブロークンイングリッシュで懇願した。

「エクスキュウズ、ミーッ! アイ マストゥ ゴー トゥ ナリタッ バイ ジス フライト! プリーズ オープン ディス ドアッ!!!」
「△※◎□▲○・・・ペラペラ、ペラペラ・・・」
(え~い、糞っ、何言ってんだか全然わかんねえよ)
「・・・☆★◯※・・・ハイジャック・・・●△◆☆○※・・・」

(ハイジャックって言ってるな。そうじゃないって。見りゃ分かるだろ!ただの客だって。飛行機そこにまだ止まってんじゃん!! 何とかなるだろう!)

「ア、アイ マストゥ ゴー ジャパンッ トゥデイ!(んもうっ、絶対なんだよ)アイ マストゥ!!!!!」
「・・・???」
「ビコウズ マイ ビジネス! アイ マストゥ ゴー トゥ ドゥ ビジネス!」

奴は相変わらず落ち着き払っていて、冷ややかに言い続けた。

「ノウ・・△※○☆●・・エアアメリキャン△◆◎・・カウンター・・」

(こいつは、何があっても揺るぎそうも無い。俺を乗せるつもりなど全く無い。諦めるしかなさそうだ。)
仕方なく、俺は決断した。この制服男との交渉はもうやめよう、これ以上どう詰め寄ったって埒が開かない。
奴の側を離れ、近くの椅子に腰をおろした。ガラス越しに止まっていた飛行機が、ゆっくりと動き出していた。一巻の終わりだ。
ただ見送るしかない、俺。こんなところで、ただ独り。

(これで、役者になってから、初めて自分の仕事に穴を開けることになる。
ああ、なんてこった!! どうしたら、いいんだ? 一体、どうしたらあ????)

なんか、また長くなってしまいました。ま、ブログに規定原稿枚数ってないから、ノリが入るとつい伸びてしまうんですかね。
ってことで、続きは次回です。
しか~し、一週間後とは限りませんよ。先週の金曜日のようなことも、大いにあり得ます。ま、今のところ基本的には二週間に一回の定期更新ですが、イレギュラーもありでいきますので、よろしく。

コメントを寄せて下さる皆さんへ。

いつも楽しみに読ませて貰ってます。昔からの俺のファンの方、同世代の方、意外に若い方、またブログで俺を知った方、読んで下さった方からのいろんなコメントに励まされてます。凄く嬉しいです。ブログという新しいコミュニケーションツールに出会えて良かったと、つくづく実感しています。ありがとうございます。これからも宜しくお願いします。

では、またお会いしましょう。
投稿者 根津甚八 08:16 | コメント(14)| トラックバック(0)
<<  2006年 10月  >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
カテゴリ別アーカイブ
このブログサービスは「テニス365 テニスブログ」で運営しています。テニス365会員なら無料でご利用・作成いただけます。