5「あり得ない眼」2006年07月03日
皆さん、いかがお過ごしですか? 根津甚八です。
もう夏ですね。気温もだいぶ上がってきています。なのにテレビでは風邪薬のCMを流しています。夏風邪をひく人が増えてるってことですかね。
近頃は、野菜や果物に限らず、CMまで季節感が無くなってきたようです。
夏風邪に一度やられたことがありますが、あれは結構やっかいです。夏とはいえ、風邪などひかぬよう気をつけましょう。
相変わらず、長々と一つの話を続けています。
断っときますけど、これは決してフィクションではありませんよ。
すべて事実です。「謎」はすべて向こうから勝手に湧いて来るんであって、俺から仕掛けてるわけじゃないんです。また、意識的に引っぱってるわけでもありませんからね。そこんとこ、よろしく。
書いてる本人も早く結末へ持っていきたいのですが、思うように行かず戸惑っているというのが本当のところです。
では、前回のつづきをお楽しみ下さい。
「もう少しで唐さんが帰って来るので、それから面接をします」と告げられた。
オーッ! ついにあの憧れの唐十朗に会える!!
21歳のケツ青き根津くんは、浮き足立った自分を抑えるのが精一杯であった。(とにかく軽薄に見られないこと、それで一点突破だ)
玄関口に誰やら帰って来たような雰囲気がして、程なく正面のドアから、藍色の和服姿というくつろいだ雰囲気で、唐さんはごくフツーに現れた。
十畳あまりの空間に二人っきりである。
大体が、中国人のようなペンネームからしてすでに充分奇異であり、『腰巻きお仙』に載っていた顔写真のイメージがあまりにも強烈過ぎて、いま唐さんを目の前にしていることが現実とは思えないほど冷静さを失っていた。夢とも現実とも判別できない不思議な時空にはまりこんでいるとでも言ったらいいのだろうか。
「腰巻きお仙」に載っていた唐さんの20代の頃の写真です。どうです、 この顔? 当時の俺には本当に衝撃でした。
唐さんは俺の答案用紙を眺めながら、時折こっちを見る。その異様にツルンとした顔立ち、キラキラと赤ん坊の眼(マナコ)のように薄青く澄んだ眼。あり得ない眼だ。そして今迄見た事がない不思議な顔つき。
憧れの唐十朗が、今、間違いなく俺のすぐ前にいる。
「ギターを弾けるの?」
「はい、少しだけ」
「じゃ、そこにあるギターで何かやってみて」(ここで俺の好きなビートルズとかボブ・ディランなんぞやったらマズイな、ここはド演歌『悲しい酒』を一節)
♪チャンチャカ、チャンチャンチャンチャン、チャンチャカ、チャンチャンチャン…、長目のイントロを終え、ひ~と~り~酒場で~と歌いだしたとたん、
「昼間っから、そういうのも何だから」と、すぐに止められた。(はずしたか)
「大学で演劇をやってたの?」
「はい、サークルですけど」
「これまで読んだ戯曲で、一番感動したものは?」
「サルトルの『蝿』です」
「…それは、僕の卒論だよ」
「そ、そうなんですか」
「……じゃ、今日はこれで」
面接はあっけなく終わり、「では、今日の夕方四時に電話をください。結果を伝えます」と告げられた。
その日の夕方。四時キッカリに公衆電話から電話を入れた。
「今日試験を受けた根津ですが…」
「あなたは、合格です」
一瞬呆然とした。あまりに呆気無さ過ぎていまひとつ現実感がない。
しかし、どうやら、俺は、あの憧れの唐十朗が率いる伝説の劇団に、絶対あり得ないと思っていたあの状況劇場に入れたらしかった。
「えっ! あ、そうですか! ありがとうございます」
「それでですね、もし君が望むならばね、他の団員と同居だけど、こちらの稽古場に住むということも出来ます。勿論多少の家賃はかかりますが……」
「……う~ん、そうですね……、じゃ、そうさせてもらいます」
「では、いろいろと身辺の整理をすませてから、2週間後に稽古場に来て下さい」
電話を切って
きっちり2週間後、西日暮里の四畳半を引き払い、少々の本とレコードと小さなステレオ装置とともに状況劇場の稽古場に転がり込んだ。
21歳の秋であった。
また今回も結末までたどり着けませんでしたね。次回で必ず完結にします。ケツ青き根津君にまつわりついてきた数々の謎も、すべて解けます。
続けて読んで下さってる皆さんに感謝しております。
また、お会いしましょう。
もう夏ですね。気温もだいぶ上がってきています。なのにテレビでは風邪薬のCMを流しています。夏風邪をひく人が増えてるってことですかね。
近頃は、野菜や果物に限らず、CMまで季節感が無くなってきたようです。
夏風邪に一度やられたことがありますが、あれは結構やっかいです。夏とはいえ、風邪などひかぬよう気をつけましょう。
相変わらず、長々と一つの話を続けています。
断っときますけど、これは決してフィクションではありませんよ。
すべて事実です。「謎」はすべて向こうから勝手に湧いて来るんであって、俺から仕掛けてるわけじゃないんです。また、意識的に引っぱってるわけでもありませんからね。そこんとこ、よろしく。
書いてる本人も早く結末へ持っていきたいのですが、思うように行かず戸惑っているというのが本当のところです。
では、前回のつづきをお楽しみ下さい。
「もう少しで唐さんが帰って来るので、それから面接をします」と告げられた。
オーッ! ついにあの憧れの唐十朗に会える!!
21歳のケツ青き根津くんは、浮き足立った自分を抑えるのが精一杯であった。(とにかく軽薄に見られないこと、それで一点突破だ)
玄関口に誰やら帰って来たような雰囲気がして、程なく正面のドアから、藍色の和服姿というくつろいだ雰囲気で、唐さんはごくフツーに現れた。
十畳あまりの空間に二人っきりである。
大体が、中国人のようなペンネームからしてすでに充分奇異であり、『腰巻きお仙』に載っていた顔写真のイメージがあまりにも強烈過ぎて、いま唐さんを目の前にしていることが現実とは思えないほど冷静さを失っていた。夢とも現実とも判別できない不思議な時空にはまりこんでいるとでも言ったらいいのだろうか。
「腰巻きお仙」に載っていた唐さんの20代の頃の写真です。どうです、 この顔? 当時の俺には本当に衝撃でした。
唐さんは俺の答案用紙を眺めながら、時折こっちを見る。その異様にツルンとした顔立ち、キラキラと赤ん坊の眼(マナコ)のように薄青く澄んだ眼。あり得ない眼だ。そして今迄見た事がない不思議な顔つき。
憧れの唐十朗が、今、間違いなく俺のすぐ前にいる。
「ギターを弾けるの?」
「はい、少しだけ」
「じゃ、そこにあるギターで何かやってみて」(ここで俺の好きなビートルズとかボブ・ディランなんぞやったらマズイな、ここはド演歌『悲しい酒』を一節)
♪チャンチャカ、チャンチャンチャンチャン、チャンチャカ、チャンチャンチャン…、長目のイントロを終え、ひ~と~り~酒場で~と歌いだしたとたん、
「昼間っから、そういうのも何だから」と、すぐに止められた。(はずしたか)
「大学で演劇をやってたの?」
「はい、サークルですけど」
「これまで読んだ戯曲で、一番感動したものは?」
「サルトルの『蝿』です」
「…それは、僕の卒論だよ」
「そ、そうなんですか」
「……じゃ、今日はこれで」
面接はあっけなく終わり、「では、今日の夕方四時に電話をください。結果を伝えます」と告げられた。
その日の夕方。四時キッカリに公衆電話から電話を入れた。
「今日試験を受けた根津ですが…」
「あなたは、合格です」
一瞬呆然とした。あまりに呆気無さ過ぎていまひとつ現実感がない。
しかし、どうやら、俺は、あの憧れの唐十朗が率いる伝説の劇団に、絶対あり得ないと思っていたあの状況劇場に入れたらしかった。
「えっ! あ、そうですか! ありがとうございます」
「それでですね、もし君が望むならばね、他の団員と同居だけど、こちらの稽古場に住むということも出来ます。勿論多少の家賃はかかりますが……」
「……う~ん、そうですね……、じゃ、そうさせてもらいます」
「では、いろいろと身辺の整理をすませてから、2週間後に稽古場に来て下さい」
電話を切って
きっちり2週間後、西日暮里の四畳半を引き払い、少々の本とレコードと小さなステレオ装置とともに状況劇場の稽古場に転がり込んだ。
21歳の秋であった。
また今回も結末までたどり着けませんでしたね。次回で必ず完結にします。ケツ青き根津君にまつわりついてきた数々の謎も、すべて解けます。
続けて読んで下さってる皆さんに感謝しております。
また、お会いしましょう。