6「委細面談」2006年07月10日
皆さん、いかがお過ごしですか? 根津甚八です。
アッツイですね~。夏本番真近って感じですね。
ところであなたは、一日に「アッツイ」を何回言ってますか?
俺は、最低20回ぐらい、いや30回以上言っちゃてますかね。
夏場の「アッツイ」は一種のボヤキだと思うのですが・・・どうですかね?
いくら「アッツイ、アッツイ」ってボヤイても、いっこうに涼しくなんかならないけど、止まるもんじゃないんだな、これが・・・。
でも東京の暑さには、コンクリートジャングル特有の不自然な息苦しさがへばり付いてますからね、ついボヤキが出ても無理からぬところでしょう。
東京に限らず、夏になれば、大阪とか名古屋とか、大都会はどこも同じく「ヒートアイランド現象」に包まれてしまうんだろうなあ。
むか~し、むか~し、昭和の初期までの東京は「水の都」と呼べるほど、清らかな川が沢山流れていたそうな・・・
ああ、それなのに、それなのに、美しい川たちは次々と道路の下に埋められ、ただの排水路に変えられてしまったんだと・・・
都内のあちこちにある「××緑道」は、かつての美しい川の流れの成れの果てなのだそうな・・・
「××緑道」のアスファルトを全~部引っぱがしちまってよ~、清らかな川の流れを蘇らせたら、この東京もさぞ涼しくなろうにのう・・・
さてさて、長々と失礼いたしやした。やっと今回でエンドマークでございます。お楽しみ下さい。
「では、いろいろと身辺の整理をすませてから、2週間後に稽古場に来て下さい」
ってなわけで、キッカリ2週間後、俺は早速身の回りの品々と共に稽古場に転がり込んだ。
この時、劇団は、すでに『少女都市』の公演に向けて稽古に入っていて、すぐ翌日から稽古に参加、といっても、奇優、怪優たちに圧倒されつつ、食い入るようにその演技を観ていただけですけどね。
稽古場は、唐さんと初めて対面した、あの十畳あまりの洋間であった。
正面の壁の上部には、剣道場のように劇団員の名札が下がっていて、唐さんを筆頭に李礼仙、麿赤児、大久保鷹、不破万作、特別劇団員・四谷シモンと並んでいて、「研究生」の札の後には田和耶、大月雄二郎、十貫寺梅軒、上原誠一郎などと続き、都合全部で13枚。当然、稽古場にいる中で名札が無いのは新入りの俺だけである。
ん? ということは、今回の新人募集で受かったのは俺一人? まさか、そんなことは考えられない。少なくともあと2、3人はいるはずだ。だって、唐十朗率いる一党、状況劇場の入団試験だよ。合格者がたったの一人って、そりゃあり得ないだろう。
しかし、稽古場に転がり込んでから一週間たっても、二週間たっても、俺以外に新人は一人も現れなかったのだ。
研究生として入団してどれほどたった頃だろうか、劇団の大番頭と呼ばれていた不破万作さんに思い切って聞いてみた。
「入団してからずーっと引っ掛かっていたことがあるんですけど、ちょっといいですか?」
「なに?」
「実は、今回の新人募集で受かったのが俺一人だけっていうのが、どうも解せないんですよ」
「……あのな、うちはテント劇場だろ」
「はい」
「だから一定の男手がないとテントが立てられない、つまり公演を打てないわけだよ。」
「ええ…」
「この夏にやった日本縦断興行がかなりキツかったからさ、それで劇団員や研究生がかなり辞めちゃったんだよ。でな、座長、李さん、シモンを除くと、テント用員が10人になっちまったたわけだ。テントが立たなきゃ始まらないわけだからさ、ここんとこズーッと男手を募集してたわけさ」
「はあ~、そういうことだったんですか」
正直言って面食らった。この時状況劇場がやっていた「新人募集」とは、通常の試験のような一日限りのものではなく、公演日程を目前に控え、とりあえずのテント用員として、男手をかき集めるために随時行なわれていたのだ。なんて事はない、ちょっと昔に喫茶店や小さなバーの表によくあった「ホステスさん募集・委細面談」の貼り紙。あれと同じである。
こうして、異形の一党・状況劇場がありきたりの劇団と同じような新人募集をやっていたという謎、
二十歳そこそこの非常識な若造に、何故、尋常でない丁寧さで対応してくれたのかという謎、
そして入団試験当日、遅刻したにも関わらず「明日もう一度、同じ時間に来なさい」という、通常では絶対あり得ない対応の謎、
俺以外に受験生が見当たらず、不気味に静まりかえっていた玄関ホールの謎……。
それらすべての謎の塊は一気に氷解したのである。
状況劇場にはテント劇場ならではの止むにやまれぬ事情と、俺には俺の切羽詰まった事情とが重なって、運命的ともいえる状況劇場への入団と同時に、俺の役者修行はこうして始まったであった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
ナント6週間もかかってしまいましたが、皆さんから「面白い」「続きを早く」などとコメントをいただき、嬉しく思いました。
ただし、正直言って、完結篇を書き終えた今、次の話題のセレクトにプレッシャーを感じてます。
では、またお会いしましょう。
アッツイですね~。夏本番真近って感じですね。
ところであなたは、一日に「アッツイ」を何回言ってますか?
俺は、最低20回ぐらい、いや30回以上言っちゃてますかね。
夏場の「アッツイ」は一種のボヤキだと思うのですが・・・どうですかね?
いくら「アッツイ、アッツイ」ってボヤイても、いっこうに涼しくなんかならないけど、止まるもんじゃないんだな、これが・・・。
でも東京の暑さには、コンクリートジャングル特有の不自然な息苦しさがへばり付いてますからね、ついボヤキが出ても無理からぬところでしょう。
東京に限らず、夏になれば、大阪とか名古屋とか、大都会はどこも同じく「ヒートアイランド現象」に包まれてしまうんだろうなあ。
むか~し、むか~し、昭和の初期までの東京は「水の都」と呼べるほど、清らかな川が沢山流れていたそうな・・・
ああ、それなのに、それなのに、美しい川たちは次々と道路の下に埋められ、ただの排水路に変えられてしまったんだと・・・
都内のあちこちにある「××緑道」は、かつての美しい川の流れの成れの果てなのだそうな・・・
「××緑道」のアスファルトを全~部引っぱがしちまってよ~、清らかな川の流れを蘇らせたら、この東京もさぞ涼しくなろうにのう・・・
さてさて、長々と失礼いたしやした。やっと今回でエンドマークでございます。お楽しみ下さい。
「では、いろいろと身辺の整理をすませてから、2週間後に稽古場に来て下さい」
ってなわけで、キッカリ2週間後、俺は早速身の回りの品々と共に稽古場に転がり込んだ。
この時、劇団は、すでに『少女都市』の公演に向けて稽古に入っていて、すぐ翌日から稽古に参加、といっても、奇優、怪優たちに圧倒されつつ、食い入るようにその演技を観ていただけですけどね。
赤瀬川源平さん制作の『少女都市』のポスター
稽古場は、唐さんと初めて対面した、あの十畳あまりの洋間であった。
正面の壁の上部には、剣道場のように劇団員の名札が下がっていて、唐さんを筆頭に李礼仙、麿赤児、大久保鷹、不破万作、特別劇団員・四谷シモンと並んでいて、「研究生」の札の後には田和耶、大月雄二郎、十貫寺梅軒、上原誠一郎などと続き、都合全部で13枚。当然、稽古場にいる中で名札が無いのは新入りの俺だけである。
ん? ということは、今回の新人募集で受かったのは俺一人? まさか、そんなことは考えられない。少なくともあと2、3人はいるはずだ。だって、唐十朗率いる一党、状況劇場の入団試験だよ。合格者がたったの一人って、そりゃあり得ないだろう。
しかし、稽古場に転がり込んでから一週間たっても、二週間たっても、俺以外に新人は一人も現れなかったのだ。
研究生として入団してどれほどたった頃だろうか、劇団の大番頭と呼ばれていた不破万作さんに思い切って聞いてみた。
「入団してからずーっと引っ掛かっていたことがあるんですけど、ちょっといいですか?」
「なに?」
「実は、今回の新人募集で受かったのが俺一人だけっていうのが、どうも解せないんですよ」
「……あのな、うちはテント劇場だろ」
「はい」
「だから一定の男手がないとテントが立てられない、つまり公演を打てないわけだよ。」
「ええ…」
「この夏にやった日本縦断興行がかなりキツかったからさ、それで劇団員や研究生がかなり辞めちゃったんだよ。でな、座長、李さん、シモンを除くと、テント用員が10人になっちまったたわけだ。テントが立たなきゃ始まらないわけだからさ、ここんとこズーッと男手を募集してたわけさ」
「はあ~、そういうことだったんですか」
正直言って面食らった。この時状況劇場がやっていた「新人募集」とは、通常の試験のような一日限りのものではなく、公演日程を目前に控え、とりあえずのテント用員として、男手をかき集めるために随時行なわれていたのだ。なんて事はない、ちょっと昔に喫茶店や小さなバーの表によくあった「ホステスさん募集・委細面談」の貼り紙。あれと同じである。
こうして、異形の一党・状況劇場がありきたりの劇団と同じような新人募集をやっていたという謎、
二十歳そこそこの非常識な若造に、何故、尋常でない丁寧さで対応してくれたのかという謎、
そして入団試験当日、遅刻したにも関わらず「明日もう一度、同じ時間に来なさい」という、通常では絶対あり得ない対応の謎、
俺以外に受験生が見当たらず、不気味に静まりかえっていた玄関ホールの謎……。
それらすべての謎の塊は一気に氷解したのである。
状況劇場にはテント劇場ならではの止むにやまれぬ事情と、俺には俺の切羽詰まった事情とが重なって、運命的ともいえる状況劇場への入団と同時に、俺の役者修行はこうして始まったであった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
ナント6週間もかかってしまいましたが、皆さんから「面白い」「続きを早く」などとコメントをいただき、嬉しく思いました。
ただし、正直言って、完結篇を書き終えた今、次の話題のセレクトにプレッシャーを感じてます。
では、またお会いしましょう。