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根津甚八プロフィール
俳優。75年「娘たちの四季(フジテレビ)」でエランドール賞を受賞。同年「濡れた賽の目」で映画デビュー。80年黒沢明監督の「影武者」に出演。82年「さらば愛しき大地」でキネマ旬報主演男優賞、日本アカデミー賞主演男優賞受賞。85年に再び黒澤明監督の「乱」に出演し世界的評価を得る。近年は舞台を中心に精力的に活動している。
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異形の役者体2

皆さん、いかがお過ごしですか? 根津甚八です。

冬に逆戻りしてしまったような朝晩の寒さが続く今日この頃です。

春は、どこで寄り道をしてるんでしょうか? 焦らしてくれますね。
でも,東京では、3月中に桜の満開が見られそうだといってますから、例年にない異常な早さで、春は間違いなくそこまで来ています。
街のあちこちで、様々な木々に花が咲いてるのを目にすると、自然と気分がウキウキしてきます。

「百花繚乱」というにはまだ早いかもしれませんが、冬の間じっと縮こまっていたものが徐々に開いてくるこの季節は、心地良いものです。

桜1


前回載せた、我が家の裏庭に咲いてる薄黄色の花の画像を、あれは「土佐水木」ではないかとのコメントをいただきました。
そうです!!!「土佐水木」でありんした。
おかげですっかり忘れていた木の名前を思い出しました。
ありがとうございます。

頭がボーッとしてるのは、決して陽気のせいではありません。
人の名前も、昔、感動した映画のタイトルさえ、若い頃のようにすっと出てこないことが、増えてきました。これっばかりは、逆らいようのないこと。「生。病。老。死。」です。

先週、友人と二人で、多摩堤通り沿いの桜を確認しに行ってきました。近づいてみると、4月に見る桜に比べると、花の色が少し濃い感じで、どうも、早咲きの種類で、染井吉野ではないみたいです。
先日、車から見かけたのは、この種のうちの数本だったようで、早とちりでした。・・・(チョット、チョットオ)いや、失礼仕った。

でもって、折角出掛けてきたんだからと、気の早い満開の桜の樹をバックに撮ってもらったのが、上の写真。

周りの染井吉野はまだこんな感じ。

染井吉野


さくらと言えば、この日の花見のメンバーは、もう一人、いや一匹いたのです。

さくらチャン
当然何処へ行くのか何も知らない。
でも、嬉しそう。


友人から、このワンちゃんの名前が「さくら」と聞き、変な偶然にチョイ驚き!
さくらチャンはシェトランドシープドッグと柴犬のハーフ。メスの8才。雑種? いいえっ、 違います!!! れっきとしたハーフなんです。

いやあ、ついつい枕が長くなってしまいました。

でもって、前回の続き、大怪優・麿赤児(あかじ)についてのお話。

前にも書いたように、俺は、唐さんの『腰巻きお仙・特権的肉体論』を読んでインスパイヤされ、「状況劇場に入りたい、こんな芝居をやってみたい」という熱病にかかってしまったわけで、生(なま)のテント芝居を観て感動したからではなかった。
紅テントでの芝居を初めて観たのは、入団試験を受けたいと「状況」に電話したら、まずうちの芝居を一度観て、それから受けるかどうか決めなさいと人生指導(??)され、それからやっと観にいったという、実におそまつ君なのであった。

入団してから気づいたのだが、この点が、どうやら他の新人たちとは違っていた。

状況劇場に入団を希望してくる若者は、妖し気な紅テントに包まれて、予想を遥かに超えた異形の役者たちの圧倒的にエネルギッシュな芝居に魂を奪われてしまったような強烈な衝撃を受け、夢にうなされた風情で劇団の稽古場を訪れ、

「入りたいんです・・・」

と、一声。あるいは、身の回りの生活用具一式を持参して強引に入団を懇願する。いわゆる押し掛け女房ならぬ、押し掛け研究生。
そこで、見込みのありそうな、あるいは何か役に立ちそうな若者だけが入団を許されるというわけだ。

しかし、俺の場合、少し事情が違っていた。

初めてであると同時に最後となってしまった状況劇場のテント芝居を観て、最も印象に残ったのは、異形の役者たちではなく、地の底から響いて来てるようなオドロオドロしいフルートのメロディーであった。(後に、ピエール・ランパル演奏の「ハンガリー田園幻想曲」であることを知った)
何か得体の知れない恐ろしい者たちが、闇に潜んでこちらを窺っているような、暗く湿ったメロディ・・・。
今でもランパルのこの曲を聞くと、40年前の明大和泉に唐突に建っていた紅テントの光景が鮮明に蘇ってくる。

この名曲を聞いたことがない方は、是非一度聞いてみてください。ハンガリーと曲名にあるのに、日本の情緒を感じさせます。お薦めです。でも、絶対に、絶対にランパルの演奏でないと駄目ですよ。

ハンガリー田園幻想曲

 
初めて見た紅テントの風情に、子供の時に覗いた見せ物興行のテント小屋を思い出し、奇妙な郷愁を感じていた。
見てはいけないものを見てしまったような後ろめたさと、怖いもの見たさのドキドキする期待感が入り混じった甘酸っぱい懐かしさ。

やがて幕が開く。といっても、裏地もないの粗末な黒い布きれ一枚。
だが、芝居が始まってもそれ程の衝撃は受けなかった。
目の前で繰り広げられる展開は、唐さんの本を繰り返し読んでイメージしていたものを超えるものではなかったからである。

っつうのは、嘘!!

実は、観劇中の俺は、差し迫った入団試験をどうやって切り抜けるかということにイッパイイッパイで、この奇妙で妖し気な唐十朗の一党の、果たして何処に自分が入り込む余地があるのか? そんなことばかりに集中していたのだ。つまり、芝居を観賞するどころではなかったである。

この時上演されていた「腰巻きお仙・義理人情いろはにほへと篇」を、本で繰り返し読んでいて、あらかたの台詞を覚えていたこともあるだろう。
とにかく、この劇団の中に自分のようなキャラクターが立ち入る隙間があるのかどうかという、俯瞰の視点から観察(?)していたようなものだから、役者たちの演技そのものを観る余裕などなかったというところだろう。

っつうことだから、入団してから、狭い稽古場の中での役者たちのスッピンでの演技を観て、遅ればせながら仰天したのであった。

ここらで当時の麿さんの舞台写真を見せたいのだが、残念ながらない。どの状況劇場関連の本を見ても、これぞ「麿赤児」という写真は載っていないのだ。あり得ないことである。
仕方ないんでグーグルして探した。
あの頃の麿赤児をイメージ出来る唯一の画像が、これだっ!!! ワン、ツー、スリー!

大駱駝館
当時は、同じ白塗りでももっと泥臭かった。


中でも、間近に見る麿さんの「フランケ醜態」は、かつて見たこともない演技、いや、『演技』などというそんなありふれた言葉だけでは語れない。言ってしまえば、観る者に迫ってくるのは、麿赤児という生の肉体の在り様(よう)なのだ。
まさに赤い血流が透けて見えそうに生き生きとした演技なのだ。(やはり、『演技』で語ってしまった)

あの時代において、まぎれもなく他の役者たちからズバ抜けて突出した表現者であった麿赤児という希有な役者体の演技を目の前にして、俺はもう毎日,興奮の連続であった。

また、知らぬ間にこんなに長くなってしまいました。

まだまだ麿さんの話は続くのだ。

では、またお会いいたしましょう。

投稿者 根津甚八 18:23 | コメント(15) | トラックバック(0)
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