黒合羽2006年09月11日
皆さん、いかがお過ごしでしょうか? 根津甚八です。
ここのところ、朝晩は大分過ごしやすくなってきましたね。
コンクリートとアスファルトで固められたこんな都会でも、ツクツクボウシの鳴き声が聞こえ始め、なにやら、秋の気配さえ感じてしまう、今日この頃です。
蝉といえば、山梨にいたのころは、この時期になるとヒグラシの大合唱が
どこか寂しげに響き渡ってていたけど、東京では殆ど耳にしたことは無いですね。
それはさておき、今回もまた自転車にまつわるエピソードです。
あれは、確か、稽古場が土支田から中野に移った年の夏だった。
いつものように稽古を終えてから酒宴が始まり、夜中近くになっても盛り上がったまま、ひきつづき唐さん宅に席を変えて飲むことになった。唐さんは、稽古場とは別に、杉並区の大和町に一軒家を借りていた。
この頃もまだ、俺の自転車での稽古場通いは続いていた。
土支田の農道で修理不能となった自転車は、そのまま廃棄し、中古で手に入れたスポーツ車を愛用していた。
その日、午前中は天気が良かったので、稽古場には自転車で来ていた。
ところが、夕方から雲行きが怪しくなり、夜にはポツポツと小雨が降り始めていた。
さて、唐さん宅へ移動となった時、他の座員と一緒に電車で行けば良かったのに、我が愛車を、稽古場のあるマンションの前の道路脇に置いていくと、盗まれるのではと不安だった。
稽古場から唐さん宅まで、自転車で飛ばせば十数分の距離だ。この程度の雨ならそれほど濡れずに済む。そこで、酔い覚ましも兼ねて、夜の雨の中を、ひとり、自転車で大和町へ向かった。
早稲田通りに出た頃から、雨足が少しずつ強くなり、ホロ酔い加減の顔面に当たる雨粒が心地良い。
環七の大和陸橋を超えた辺りからは、雨足はさらに強さを増し、土砂降りとなってきた。顔面を打つ雨粒が、痛い。前方の視界も悪くなってきた。全身、下着も靴も雨水でタップタプである。
何故だろう、徹底的にグショ濡れになると、逆に気分はハイになる。
(ここまで来れば、あと数分だ。行けぇ、行けぇ~)
ペダルに力を込め、スピードを上げた。
と、その時、俺の真正面から、黒合羽に身を包んだ警官が、例の白い自転車でユックリと向かって来るのが、街灯に照らされてボンヤリ見えた。
思わずスピードを落とす、俺。
狭い歩道上を、変わらずユッタリと向かって来る警官の白い自転車。土砂降りの雨など、まるで気にならない様子。
互いの距離が詰まって来る。何故か、緊張する俺。
自転車の警官が、目前3メートルと迫った時、彼は、突然俺の行く手を遮ったのである。
「はい、チョット止まって~」
「何ですかっ」(急いでいた俺は、少しムッとした)
「・・・今から、どこへ行くの?」
「知り合いの家です」
「・・・何処からきたの?」
「・・・中野です」
学生時代の体験上、警察官に対しての偏見を拭いきれていなかったこともある、それにずぶ濡れで体が冷えていたこともあるが、まず、その横柄な言葉遣いにムカついた。そして、土砂降りの雨が降ってるというのに、雨をしのぐために近くの軒先へ案内することもなく、全身びしょ濡れの人間を、いきなり職務質問するという態度にムカついた。
「・・・この自転車は、君の?」
「そうですっ」
黒合羽の警官は、おれの自転車の登録証の番号をメモし、やおら無線を取り出すと、何処かへ問い合わせを始めたのだ。
すると、そこへ、運の悪いことにもう一人の黒合羽の警官が通りかかり、首を突っ込んで来た。最初の黒合羽が、二人目の黒合羽に何やら説明し始めた。俺の事は、土砂降りの中にほったらかし。
(もうアッタマにきた。明らかに、俺の中古で買った愛車を盗んだ自転車だと疑っている!! よしっ、こいつら、振り切ってやる。警官達の自転車は実用車、俺のはスポーツ車だ。勝てる。)
二人の隙を見て、俺は大雨の中を猛然とダッシュした!!!!!!
早稲田通りを直進してるまでは、俺の方が速かった。だが、このまま大通りを走っていては、彼らを巻けないと思い、細い路地へ入った。
角があれば、右へ左へとデタラメに曲がった。尾行する者を巻く時のセオリーだ。しかし、この判断が失敗であった。
スピードを目一杯上げて逃げ切りたくても、曲がり角の手前ではブレーキをかける必要がある。ところが、俺の自転車のブレーキは、雨のせいで殆ど効かないのだ。
角を曲がれば曲がるほど、黒合羽の二人がズンズン、ズンズン迫って来る。
(何でぇ~? こうなるの??)
そして、ついに黒合羽に追いつかれ、あえなく降参。スゴスゴと近所の交番までついて行き、再度問い合わせた結果、俺の嫌疑は晴れた。
惨めな濡れ鼠状態で、やっと唐さん宅にたどり着いたのであった。
真夜中に土砂降りの雨の中を、ズブ濡れで自転車を飛ばしていたら、そりゃ、不審者に見えても仕方がないですよね。気をつけましょう。
それから、雨天時、スポーツ車のブレーキ性能は、極端に落ちる。これにも気をつけましょう。
では、またお会いしましょう。
ここのところ、朝晩は大分過ごしやすくなってきましたね。
コンクリートとアスファルトで固められたこんな都会でも、ツクツクボウシの鳴き声が聞こえ始め、なにやら、秋の気配さえ感じてしまう、今日この頃です。
蝉といえば、山梨にいたのころは、この時期になるとヒグラシの大合唱が
どこか寂しげに響き渡ってていたけど、東京では殆ど耳にしたことは無いですね。
それはさておき、今回もまた自転車にまつわるエピソードです。
あれは、確か、稽古場が土支田から中野に移った年の夏だった。
いつものように稽古を終えてから酒宴が始まり、夜中近くになっても盛り上がったまま、ひきつづき唐さん宅に席を変えて飲むことになった。唐さんは、稽古場とは別に、杉並区の大和町に一軒家を借りていた。
この頃もまだ、俺の自転車での稽古場通いは続いていた。
土支田の農道で修理不能となった自転車は、そのまま廃棄し、中古で手に入れたスポーツ車を愛用していた。
その日、午前中は天気が良かったので、稽古場には自転車で来ていた。
ところが、夕方から雲行きが怪しくなり、夜にはポツポツと小雨が降り始めていた。
さて、唐さん宅へ移動となった時、他の座員と一緒に電車で行けば良かったのに、我が愛車を、稽古場のあるマンションの前の道路脇に置いていくと、盗まれるのではと不安だった。
稽古場から唐さん宅まで、自転車で飛ばせば十数分の距離だ。この程度の雨ならそれほど濡れずに済む。そこで、酔い覚ましも兼ねて、夜の雨の中を、ひとり、自転車で大和町へ向かった。
早稲田通りに出た頃から、雨足が少しずつ強くなり、ホロ酔い加減の顔面に当たる雨粒が心地良い。
環七の大和陸橋を超えた辺りからは、雨足はさらに強さを増し、土砂降りとなってきた。顔面を打つ雨粒が、痛い。前方の視界も悪くなってきた。全身、下着も靴も雨水でタップタプである。
何故だろう、徹底的にグショ濡れになると、逆に気分はハイになる。
(ここまで来れば、あと数分だ。行けぇ、行けぇ~)
ペダルに力を込め、スピードを上げた。
と、その時、俺の真正面から、黒合羽に身を包んだ警官が、例の白い自転車でユックリと向かって来るのが、街灯に照らされてボンヤリ見えた。
思わずスピードを落とす、俺。
狭い歩道上を、変わらずユッタリと向かって来る警官の白い自転車。土砂降りの雨など、まるで気にならない様子。
互いの距離が詰まって来る。何故か、緊張する俺。
自転車の警官が、目前3メートルと迫った時、彼は、突然俺の行く手を遮ったのである。
「はい、チョット止まって~」
「何ですかっ」(急いでいた俺は、少しムッとした)
「・・・今から、どこへ行くの?」
「知り合いの家です」
「・・・何処からきたの?」
「・・・中野です」
学生時代の体験上、警察官に対しての偏見を拭いきれていなかったこともある、それにずぶ濡れで体が冷えていたこともあるが、まず、その横柄な言葉遣いにムカついた。そして、土砂降りの雨が降ってるというのに、雨をしのぐために近くの軒先へ案内することもなく、全身びしょ濡れの人間を、いきなり職務質問するという態度にムカついた。
「・・・この自転車は、君の?」
「そうですっ」
黒合羽の警官は、おれの自転車の登録証の番号をメモし、やおら無線を取り出すと、何処かへ問い合わせを始めたのだ。
すると、そこへ、運の悪いことにもう一人の黒合羽の警官が通りかかり、首を突っ込んで来た。最初の黒合羽が、二人目の黒合羽に何やら説明し始めた。俺の事は、土砂降りの中にほったらかし。
(もうアッタマにきた。明らかに、俺の中古で買った愛車を盗んだ自転車だと疑っている!! よしっ、こいつら、振り切ってやる。警官達の自転車は実用車、俺のはスポーツ車だ。勝てる。)
二人の隙を見て、俺は大雨の中を猛然とダッシュした!!!!!!
早稲田通りを直進してるまでは、俺の方が速かった。だが、このまま大通りを走っていては、彼らを巻けないと思い、細い路地へ入った。
角があれば、右へ左へとデタラメに曲がった。尾行する者を巻く時のセオリーだ。しかし、この判断が失敗であった。
スピードを目一杯上げて逃げ切りたくても、曲がり角の手前ではブレーキをかける必要がある。ところが、俺の自転車のブレーキは、雨のせいで殆ど効かないのだ。
角を曲がれば曲がるほど、黒合羽の二人がズンズン、ズンズン迫って来る。
(何でぇ~? こうなるの??)
そして、ついに黒合羽に追いつかれ、あえなく降参。スゴスゴと近所の交番までついて行き、再度問い合わせた結果、俺の嫌疑は晴れた。
惨めな濡れ鼠状態で、やっと唐さん宅にたどり着いたのであった。
真夜中に土砂降りの雨の中を、ズブ濡れで自転車を飛ばしていたら、そりゃ、不審者に見えても仕方がないですよね。気をつけましょう。
それから、雨天時、スポーツ車のブレーキ性能は、極端に落ちる。これにも気をつけましょう。
では、またお会いしましょう。