ナンダ~ッ、この照明わあ~!!2006年08月28日
皆さん、いかがお過ごしですか? 根津甚八です。
前触れも無く、突然更新サイクルを変えてしまって失礼いたしました。
今回も、俺がまだケツ青きころの仰天エピソードです。
俺が状況劇場に入団した時、すでに「少女都市」の稽古に入っていて、以前の長~い続き物で書いたように、テント設営用員というか、とにかく男手が必要であったという事情で入団出来たようなものであった。
上演初日が迫ってきた11月、稽古場での同居生活にもそろそろ慣れ始め、奥の畳の部屋でくつろいでいたら、唐さんに声を掛けられた。
「根津は、大学で演出もやってたんだよな?」
「ハイ、一応3回ほど・・・」
「今迄ウチの照明をやってた、井出情児っていうのが、カメラマンになるために退団しちまったんだ」
「はあ・・・」
「そこで、代わりをお前やってみないか?」
「えっ、照明をですか?」
「根津以外は皆、役についてるから、お前の他にいない」
「でも・・・」
「演出の経験があるんなら、照明プランは出来るだろう」
「・・・はあ、照明プランをたてるぐらいなら・・・」
「よし、じゃ、やってくれ」
「はい、やってみます」
ってな具合で、入団してまだ間のない俺は、いきなり照明プランナーに任命されてしまったのだ。
確か、この時期の劇団員の総勢は、新入りホヤホヤの俺も入れて13人。
それで、本番間近の「少女都市」という芝居の全登場人物は10人。
確かに人員に余裕は無い。それはわかる。
だからといって、学生演劇での経験しかない21才の新入りの研究生に、本公演の照明プランを任せるだろうか。普通では考えられない。
しかし、ここは鬼才・唐十朗率いる「状況劇場」である。一般常識では考えられない事が、次から次と当たり前のように起きるのである。
引き受けた以上は、こっちも必死であった。
翌日から照明プランナー(???)の意識を持って、稽古に参加。
それまでのように、先輩役者たちの演技を観て楽しんでいるだけでは済まなくなった。とにかく終幕までの照明プランを作りあげた。
そして、ついに公演地の渋谷・金王神社の境内に紅テントを立てて、舞台稽古ということになった。
ここで、劇場照明の基本中の基本を言っておくと、要するに「光と闇」というコントラストで成り立っているわけです。
当たり前のことですが、まず闇が無いと光は見えないということです。
闇があっての光であるわけです。大げさに言えば、闇から始まり闇に終わるのだ。
闇は様々なものを隠してくれます。そして、観客に見せたいものだけを見せることが出来る。また、闇は劇のすべてを内包してるともいえる。
演劇に限らず、すべての舞台芸術において、最も重要な基本的なカラクリの一つです。
戯曲を読むと、暗転 というト書きが出てきますが、これが良い例ですよね。一瞬にして時空を超越することが可能なんですから。
で、状況劇場の話に戻りますが、普通の劇場ならこの「闇」を人工的にいつでも出現させられるように、外光は一切遮断した構造になっているわけだけど、テント劇場ではそうはいかない。
テント劇場では、外界を区切ってるのは、厚さ2ミリにも満たない天幕の布一枚しかない。だから、テント劇場の場合、劇場照明に不可欠の「闇」を人工的に作るのは不可能なのだ。では、どうするのか?
自然の闇、つまり日没を待つしか他に方法はないのである。
それに、演出の唐さんと照明プランについての打ち合わせなど一切無しで
いきなり舞台稽古だという。
さて、舞台稽古は金王神社境内に立てた紅テントで、日中から始まった。
一幕の冒頭から、順に進んで行く。
テントの中の雰囲気は、稽古場での長閑な感じとは一変し、もの凄い緊張感であった。全員がどこか殺気ばしっている。
俺は、乏しい経験から何とかひねり出した照明プランをもとに、ついてゆくのがやっとである。だが、天幕を通して入ってくる外光の明るさに負けて、照明の効果は殆ど確認出来ない。ハッキリ言って、ライトが役者にチャンとあたってるのかどうかもボンヤリとしか分からないし、ましてや照明の色がどんな色なのかなど全く分からないというような状態で、舞台稽古は先へ先へと進行していった。
テントが夕暮れに包まれ始めると、徐々に、俺の照明プランの正体が少しずつあらわになってきた。俺は、相変わらず、初体験の照明の作業にてんてこ舞いであった。
そして、紅テントが神社の闇夜におおわれた時、
「ナンダア~~~ッ、この照明わあ~~~~~!!!!」
唐さんの怒声が、テント内に響いたのである。
客席の真ん中にデンと胡座をかいたまま、唐さんがもの凄い剣幕で怒っている。
それでなくてもパニクっていた俺は、これで余計にドツボにはまってしまい、目の前にある3台のスライダックを闇雲に操作することしか出来ない。
「ナンダア~~~ッ、この色わあ~~~!!!! 赤だろ、赤!」
大パニックに陥ってる俺のもとに、不破さんが飛んで来た。
「おい、赤は仕込んでないのか?」
「ハイ、赤は無いです」
「・・・しょうがねーな」
この時点で舞台稽古は中断。
テントの中央で唐さんと不破さんが何やら話し合って、結論が出たようだ。
不破さんは、全員を集め今日の稽古の中止を告げた。そして、独りで落ち込んでいる俺に、こう言った。
「明日の最後の舞台稽古から、井出情児が来て、照明プランを全てやり直す。それから、操作の仕方から、その他本番に必要なことは、お前が呑み込むまで徹底的に密着指導するということになった」
「・・・わかりました」
ってなわけで、翌日から、井出情児さんから、いわゆる状況劇場風照明の特訓を受け、俺の状況劇場の一員として初めて任された照明係の役目は、嵐のように始まり、何とか千秋楽まで続いたのである。
では、またお会いしましょう。
前触れも無く、突然更新サイクルを変えてしまって失礼いたしました。
今回も、俺がまだケツ青きころの仰天エピソードです。
俺が状況劇場に入団した時、すでに「少女都市」の稽古に入っていて、以前の長~い続き物で書いたように、テント設営用員というか、とにかく男手が必要であったという事情で入団出来たようなものであった。
上演初日が迫ってきた11月、稽古場での同居生活にもそろそろ慣れ始め、奥の畳の部屋でくつろいでいたら、唐さんに声を掛けられた。
「根津は、大学で演出もやってたんだよな?」
「ハイ、一応3回ほど・・・」
「今迄ウチの照明をやってた、井出情児っていうのが、カメラマンになるために退団しちまったんだ」
「はあ・・・」
「そこで、代わりをお前やってみないか?」
「えっ、照明をですか?」
「根津以外は皆、役についてるから、お前の他にいない」
「でも・・・」
「演出の経験があるんなら、照明プランは出来るだろう」
「・・・はあ、照明プランをたてるぐらいなら・・・」
「よし、じゃ、やってくれ」
「はい、やってみます」
ってな具合で、入団してまだ間のない俺は、いきなり照明プランナーに任命されてしまったのだ。
確か、この時期の劇団員の総勢は、新入りホヤホヤの俺も入れて13人。
それで、本番間近の「少女都市」という芝居の全登場人物は10人。
確かに人員に余裕は無い。それはわかる。
だからといって、学生演劇での経験しかない21才の新入りの研究生に、本公演の照明プランを任せるだろうか。普通では考えられない。
しかし、ここは鬼才・唐十朗率いる「状況劇場」である。一般常識では考えられない事が、次から次と当たり前のように起きるのである。
引き受けた以上は、こっちも必死であった。
翌日から照明プランナー(???)の意識を持って、稽古に参加。
それまでのように、先輩役者たちの演技を観て楽しんでいるだけでは済まなくなった。とにかく終幕までの照明プランを作りあげた。
そして、ついに公演地の渋谷・金王神社の境内に紅テントを立てて、舞台稽古ということになった。
ここで、劇場照明の基本中の基本を言っておくと、要するに「光と闇」というコントラストで成り立っているわけです。
当たり前のことですが、まず闇が無いと光は見えないということです。
闇があっての光であるわけです。大げさに言えば、闇から始まり闇に終わるのだ。
闇は様々なものを隠してくれます。そして、観客に見せたいものだけを見せることが出来る。また、闇は劇のすべてを内包してるともいえる。
演劇に限らず、すべての舞台芸術において、最も重要な基本的なカラクリの一つです。
戯曲を読むと、暗転 というト書きが出てきますが、これが良い例ですよね。一瞬にして時空を超越することが可能なんですから。
で、状況劇場の話に戻りますが、普通の劇場ならこの「闇」を人工的にいつでも出現させられるように、外光は一切遮断した構造になっているわけだけど、テント劇場ではそうはいかない。
テント劇場では、外界を区切ってるのは、厚さ2ミリにも満たない天幕の布一枚しかない。だから、テント劇場の場合、劇場照明に不可欠の「闇」を人工的に作るのは不可能なのだ。では、どうするのか?
自然の闇、つまり日没を待つしか他に方法はないのである。
それに、演出の唐さんと照明プランについての打ち合わせなど一切無しで
いきなり舞台稽古だという。
さて、舞台稽古は金王神社境内に立てた紅テントで、日中から始まった。
一幕の冒頭から、順に進んで行く。
テントの中の雰囲気は、稽古場での長閑な感じとは一変し、もの凄い緊張感であった。全員がどこか殺気ばしっている。
俺は、乏しい経験から何とかひねり出した照明プランをもとに、ついてゆくのがやっとである。だが、天幕を通して入ってくる外光の明るさに負けて、照明の効果は殆ど確認出来ない。ハッキリ言って、ライトが役者にチャンとあたってるのかどうかもボンヤリとしか分からないし、ましてや照明の色がどんな色なのかなど全く分からないというような状態で、舞台稽古は先へ先へと進行していった。
テントが夕暮れに包まれ始めると、徐々に、俺の照明プランの正体が少しずつあらわになってきた。俺は、相変わらず、初体験の照明の作業にてんてこ舞いであった。
そして、紅テントが神社の闇夜におおわれた時、
「ナンダア~~~ッ、この照明わあ~~~~~!!!!」
唐さんの怒声が、テント内に響いたのである。
客席の真ん中にデンと胡座をかいたまま、唐さんがもの凄い剣幕で怒っている。
それでなくてもパニクっていた俺は、これで余計にドツボにはまってしまい、目の前にある3台のスライダックを闇雲に操作することしか出来ない。
「ナンダア~~~ッ、この色わあ~~~!!!! 赤だろ、赤!」
大パニックに陥ってる俺のもとに、不破さんが飛んで来た。
「おい、赤は仕込んでないのか?」
「ハイ、赤は無いです」
「・・・しょうがねーな」
この時点で舞台稽古は中断。
テントの中央で唐さんと不破さんが何やら話し合って、結論が出たようだ。
不破さんは、全員を集め今日の稽古の中止を告げた。そして、独りで落ち込んでいる俺に、こう言った。
「明日の最後の舞台稽古から、井出情児が来て、照明プランを全てやり直す。それから、操作の仕方から、その他本番に必要なことは、お前が呑み込むまで徹底的に密着指導するということになった」
「・・・わかりました」
ってなわけで、翌日から、井出情児さんから、いわゆる状況劇場風照明の特訓を受け、俺の状況劇場の一員として初めて任された照明係の役目は、嵐のように始まり、何とか千秋楽まで続いたのである。
では、またお会いしましょう。
投稿者 根津甚八 12:32 | コメント(4)| トラックバック(0)
なんでもスマートにすっとこなせそうな根津さんでも、いろんな失敗や経験を乗り越えられて現在の地位を築かれているんですね~。
なんか、とても安心しました☆
根津さんのお話、とても面白いです♪
これからも楽しみにしています。
話があつい~根津さま節がとんでますね(^^)v
人生って何時でも勉強なんだぁね・・・
ps 先週、コメントをされていらしゃる皆様の根津さまを思われる気持ちが暖かいなぁって・・・感動してしまった~☆
でも、ふと気が付くと、根津さんのお話なんですよねー。
根津さんでもこんなことがあったんだ~~とメッチャ親近感がわきました♪